天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー唇(2/4)

  火をおぶる唇もちしものぞ行く花の枝白き夕闇の中

                      玉城 徹

*「火をおぶる唇もちしもの」とは、強烈な表現だが、相当な論客をさすのか、

キスをしたときに唇が熱かった相手をさすのだろうか。「唇もてる」ではないか?

 

  くちびるに水のことばはあふれつつ吟遊なべて喝食(かつしき)の秋

                     山中智恵子

*喝食:  禅寺で、諸僧に食事を知らせ、食事の種類や進め方を告げること。

(辞書による) 

 

  死ぬべきは我らならずやと問うときのいまだ戦闘を知らぬ唇

                      岡井 隆

  春くれど野べの霞につつまれて花のゑまひのくちびるも見ず

                      藤原仲実

*ゑまひ: ほほえみ。微笑。また花のつぼみがほころぶこと。

 

  言ひかけて開きし唇の濡れをれば今しばしわれを娶らずにゐよ

                      河野裕子

  参観のわれらにあかるし耳しひゐる子等が唇うごきて話す

                      遠山光

聴覚障害の子等の授業参観の時の情景のようだ。

 

  飲食(おんじき)のいとまほのかに開(あ)く唇(くち)よ我が深淵も知らるる莫けむ

                      安永蕗子

*知らるる莫けむ: 恐らくは知られることはないであろう。

f:id:amanokakeru:20211005063646j:plain