天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

『虚数の情緒』

 まことに面白くて為になる本を、会社の席で読み終えた。
吉田 武著『虚数の情緒』―中学生からの全方位独学法―、東海大学出版会、定価=4300円+税である。会社なので、仕事の空いたわずかな時間を見計らって読んだため、ほぼ一年かかった。
 数学を中心に、野球のバッティングの例など入れて、最先端の量子論までを、分かりやすくというか、自己完結的に解説している。著者の詳しい経歴、年齢、現在の職業は不明であるが、京都大学工学博士(数理工学専攻)とだけ紹介されている。著書には、数学や物理の解説書が数冊ある。
 この本は、たまたま藤沢の本屋でプログラミングの本を探していた時に、横目で見つけて購入したもの。1000頁もある大変分厚い本で、高価だったのだが、ぱらぱらめくっているうちに著者の情熱があふれ出てきた。もともと数学史には興味があったので、つい買ってしまった。
 
 腹痛、腰痛に耐えながら構想から執筆、出版社探しまで、3年以上かかってしまったという裏話もさることながら、なにより日本の将来を担う中学生以上の若者に対する著者の熱い期待と教育に対する熱意に感動した。
  「人生は苦である。釈迦が言われたように、生老病死一切苦、
   である。ならば、それを”たのしもう”ではないか。・・・ 
   宿命を受入れ、尚それに甘んじることなく、雄々しく潔く
   生きよう。この世に挫折なるものは存在しない、失敗は人生
   の彩りである。」


 読み終えて不覚にも会社の席で涙ぐんでしまった。