天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

蛍の歌

 先週、六花書林から取り寄せた吉岡生夫さんの『あっ、螢 歌と水辺の風景』を読み終えた。
帯のキャッチに惹かれたので買う気になった。すなわち、
  「 螢を追って、上代から近世、近代、そして現代。
   軽やかに東へ西へ、ここにフィールドワークの結実、
   待望の螢の短歌コレクション 」

 装丁が繊細で本の内容にふさわしい。感心したのは、著者が渉猟した文献の広さである。まさか吉岡さんが全ての文献を自分でもっているとは考えにくいので、図書館(電子も含めて)で調べたりしたのであろう。取り上げている歌もみな良い。他に感心するのは、関連する歌枕も実際に訪れている点である。
 いくつか気になることもある。そのひとつは、ところどころ文章に飛びがあり、意味が素直に取れない。また、事実誤認を大幅に訂正した箇所があり、訂正文の紙が挟んであること。これでは、ますます価格が不満になる。2200円はきつい。1500円程度ならまあよいか。
 これは読者の課題になるとは思うが、願わくは、蛍の歌に読み込まれた思想・感情の変遷、あるいは「われ」との関係などがまとめてあるとよい。「狂歌で楽しむ近世の川」という講演内容は、なくてもよい。付録みたいな感じになる。
というわけで、私には大変学ぶことの多い本であった。