天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

茂吉批評

 『現代短歌作法』と同時に、坂井修一著『斉藤茂吉から塚本邦雄へ』を購入したのだが、表紙絵がなんともグロテスクで下品。内容は大丈夫か? 
 斉藤茂吉の章を 読み終えたが、難しくて説得力に欠ける。鑑賞現代短歌『塚本邦雄』(本阿弥書店)という名著を書いた同じ著者とも思えない。
 斎藤茂吉の短歌を批評する評論は、実にたくさん出ている。この本もしかり。ただ、多くの批評で気になる点がある。茂吉に欠落しているあれこれを挙げて徹底的に批判する、断罪する論調である。例えば、戦争に協力的であったこと、恋愛に深みを欠いたこと。
 これら評論に対して抱く違和感は、自分が当事者になった時果たして茂吉と全く異なった対応ができたのか、という内省が伺われないことである。茂吉に同情しろというのではない。人間の弱さを危惧する視点がほしい、ということ。
 なお、茂吉に対しては、無いものねだりになるが、精神病理を職業上の専門にしていたのだから、「狂者」の内面を考察した作品ができたのでは、という期待である。