天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

初島

船上から初島を望む

 何故またこの島に行きたいと思ったのだろう。ついこの間、熱海に行ったとき見たこの島の映像が心にあこがれとして残ったに違いない。熱海港から船に乗り、初島へ向う。港についたら、以前したように左回りに島をめぐる。蘇鉄あり、椰子の木あり、南国情緒はほとんど変っていない。一時間あれば、ゆっくりと島を一周できる。十七歳の娘お初の悲恋を伝える松の根方に、源実朝初島を詠んだ次の有名な和歌の碑がある。


  箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に波の寄るみゆ


なお港の坂を上ったところに、瀟洒初島小学校・初島中学校があるが、その校歌「地球の丸さを知る子供たち」という石碑が校門前に立っていて、阿久悠作詞、三木たかし作曲となっている。阿久悠が校歌を作詞していたとは知らなかった。


      初島へ舳先が分くる春の潮      
      交尾する声のかなしき春の鳶
      はくれんのあかり寂しき朝かな


  出港の船につきくるユリカモメ餌をやらねば翻りたり
  水槽に伊勢海老、鯵らひしめきて食はるるを待つ春の初島
  水槽の底にあぎとふ鮟鱇に寄り添ひねむるカサゴと鯛と
  伊勢海老の籠浮かせたり朝光の生簀におよぐ三匹の鰤
  肉厚き龍舌蘭の葉に刻む観光客の名前恥づかし
  蘇鉄はや雌雄異株に生ひたれば雌株の花は赤くなまめく
  はくれんの花のあかりの寂しさを指にふれたり初島の朝
  悲恋はやお初の松が伝へたり盥に通ふ海上三里
  島の出の軍曹、伍長、上等兵死して残れる大いなる墓
  一時間ほどにて巡る初島のいづへにも聞く春の潮騒
  水槽にむれて泳げる鯵を見て活魚料理の店に入りたり