天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

さくら咲く

靖国神社にて

 櫻咲く季節になると日本中が湧き立つ。開花予想、桜前線 と天気予報で花の移ろいをこうも話題にするのは、世界でもおそらく日本だけであろう。古今集以来、「さくら」あるいはその象徴としての「花」を詠んだ名歌は多数ある。現代短歌でも次のような作品(順不同)はよく知られている。


  老いてなほ艶とよぶべきものありや 花は始めも終りもよろし
                      斉藤 史
  桜ばないのち一ぱい咲くからにいのち生命をかけてわが眺めたり
                      岡本かの子
  ちる花はかずかぎりなしことごとく光をひきて谷にゆくかも
                      上田三四二
  さくらばな陽に泡立つをまも目守りゐるこの冥き遊星に人と生れて
                      山中智恵子
  さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり
                      馬場あき子
  歳月はさぶしき乳を頒てどもま復た春は来ぬ花をかかげて
                      岡井 隆
  
 太平洋戦争の時、不幸にも桜が大和魂と結びついて賞揚された。特に次の歌が利用された。国を護るために身を捨てる潔い辞世とも思えたのであろう。

  しきしまのやまと心を人とはば朝日ににほふ山ざくらばな
                      本居宣長  

「同期の桜」を歌って散った多くの兵士を祀る靖国神社では、今年もたくさんの桜が満開になった。
 
  咲き満てる桜の枝に集ひたりむかしをしのぶ白鳩の群