引用符
広辞苑の説明では、次のようになっている。
文中で、他からの引用であることを示す符号である。強調・解釈、また「いわゆる」などの意を表すのに用いる。和文では、「」『』、欧文では“”‘’などで、引用した語句を囲む。
短歌では、割と気にせず用いられるが、わずか十七文字の俳句では、めったに引用符を入れることはない。むしろタブー視されている気配がある。ところが、中村草田男の全句集を見返していたら、彼は全く気にせず、引用符を多用した句を作っていたことがわかった。私にとっては新発見である。昭和二十八年刊行の『銀河依然』から始まり、次の昭和三十一年刊行の『母郷行』で目立つ。以降の句集でも変わらない。
浮浪児昼寝す「なんでもいいやい知らねえやい」
ほととぎす問ひ問ふ「こころ荒れたか」と
「何者じや春爛漫の木石とは」
「なんの春ただ二人にてたつた一人」
初蝉や「来る者」は「来る水」の如し
難解な句が多い。草田男のように極端ではないが、他の俳人にも2,3の例はある。