天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鎌倉長谷

素心蝋梅(長谷にて)

 『飯田龍太全集』を読み返している。江ノ電に乗って、第六巻「鑑賞Ⅱ」を見ていたら、


    初湯の子婆の乳房がおよぐと言ふ    山崎土化


という句に出会った。思わず笑い、しばらくして不覚にも涙ぐんでしまった。
 極楽寺駅で下車、極楽寺成就院、御霊神社、長谷寺と歩いた。初春の長谷寺に行くと福寿草に会えるのだが、今年は、影も形もなかった。どうしたことか、寂しい。いつものように長谷寺から裏の光則寺に回った。


    をさな子が数かぞへゐる初湯かな
    初春のうしほ毛羽立つ由比ヶ浜
    虚空蔵菩薩に並ぶ初護摩
    護摩供木魚のこゑののどかなる
    土牢へ石段ゆけば笹子啼く
    蝋梅の枝に尾を振る笹子かな
    橘の実は小粒なり鵯(ひよ)のこゑ

   
  ひさかたの光つめたき朝空に白木蓮のつぼみ輝よふ
  ぬばたまの大黒天の御朱印を受けてうれしき長谷寺の春
  大いなる石に墓碑銘大書せり陸軍歩兵壱等卒と
  裏山の土牢七百年を経て補強工事の格子新し
  静もれる孔雀つがひも嗅ぐならむ庭のをちこち素心蝋梅