天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

東京大学(本郷)を歩く

図書館から工学部方面を望む

 前回訪ねたのはいつであったか。記憶にないほど間があいてしまった。構内の建屋は大方は見慣れたものであったが、理学情報科学関連の新しいビルができていた。安田講堂の高さを凌ぐほどのっぽである。小柴昌俊教授がノーベル物理学賞を受賞したのが契機になったものと思われる。春休みとあって、人影はまばら。ただ、校舎の修理があちこちで進んでいて、うるさい。


  ひさびさに来し本郷に迷ひたり大学までを老人に聞く
  かつて見し景のなごりをたどりつつたどり着きたり赤門前に
  赤門を入れば医学部杢太郎、鴎外、茂吉ら学びしところ
  新人の勧誘ならしいつせいに「おー」と声あぐ弓道場に
  地下にあるプールに入りて女学生の尻に触れにしこともおもほゆ
  書籍部の上より聞こゆ朝にきてオケの部員のビオラを弾ける
  若きらは独逸、英吉利、仏蘭西へ留学したり坂の上の雲
  地方出がドイツ留学終へたればその行く末の帝国大学
  明治期の日本の技術高めたる教授のありて銅像のこる
  医の道に貢献大と銅像の青山胤通、佐藤三吉
  ノーベル賞受賞記念の楷の木はいまだ幼く支へられたり
  冬枯れのいちやう並木のつき当たり攻防ありし安田講堂
  原寸大ペンシルロケットの模型見ゆアクリル樹脂の透明な箱
  原寸大人工衛星おおすみ」の模型展示す工科の庭に
  瀟洒なる銅像としてコンドルは建築学科の庭に立ちたり
  日本初の工学博士の像ありて学問の木の楷の木を植う
  水煙の水したたれる図書館の庭にちるなり楠の病葉(わくらば)
  このあたり樋口一葉住みしはず たもとほりつつ菊坂通り
  小便の堪へがたかるを思ほひて訪ね得ざりし樋口家の跡