天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

下田の吉田松陰(1/3)

「踏海の朝」(弁天島にて)

 下田の黒船まつりに行ってみたいと思っていたが、天候が不順なのであきらめた。台風が過ぎたころを見計らって、あらためて下田を訪れ、柿崎の弁天島、玉泉寺、三島神社など松陰ゆかりの場所を歩いた。下田には過去に二度ばかり来たことがあるのだが、松陰を意識したのは今回が初めてである。
 玉泉寺は、わが国最初の領事館が置かれた場所であり、ハリス総領事他の米国人の食事をまかなうために、牛を屠殺したり、牛乳を絞ったりしたという。


     たよりなき大島の影青葉潮


  黒潮の波しぶきたつ海岸を眼下に見たり「踊り子」の席
  台風の去りし天空はれわたり海岸沿ひに「踊り子」走る
  はつ夏の椰子の木通り潮風に南国の香を嗅ぐおもひせり
  左手に黒潮しぶく海岸線沖にかすめる大島の影
  谷間(たにあひ)の高き低きに人棲めば下水汚水の処理を想ふも
  松陰をしたひし龍馬面影を探して立てり下田みなとに
  ふところに右手を入れて立つ銅像下田の海をながむる龍馬
  松陰の小径(こみち)たどりて柿崎の弁天島へ潮風のなか
  漁業権種目なりけり禁漁のトコブシ、シッタカ、イセエビ、
  アワビ


  松陰のあつき心を詠みし歌窪田空穂の歌碑古りて立つ
  松陰が泊りし島の弁天堂板戸に四首空穂の歌が
  重輔を従へはるか沖を見る弁天島の「踏海の朝」
  「踏海の朝」の銅像見上ぐればさはやかなりきはつ夏の風
  黒船の将兵たちに食はせむと牛をつなぎし屠殺の木あり
  大いなる墓石五つそれぞれに花輪おかるる黒船まつり
  ロシア人水兵たちの墓石も玉泉寺うらの山に立ちたり
  本堂の軒下にあるレリーフは乳牛(ちちうし)と乳を
  待てる人々


  松陰は渡海のこころのべなむと自首し捕はる下田の獄に
  松陰がとぢ込められし牢獄の鉄格子のみ今にのこれり
  総領事ハリスは書けり領民は礼儀正しくこぎれひなりしと
  大刀を両手につきて沖を見る昭和十七年の松陰の像