天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

早苗

横浜市東俣野町のたんぼにて

 歳時記には、苗代から田へ移し植えるころの稲の苗で、傍題として、捨苗、苗籠、早苗束、苗運び、早苗取、早苗舟、若苗、玉苗 など、という説明がある。旧暦五月は「早苗月」とも呼ばれた。


    水張りて宮城野の苗いとけなき   清水基吉
    早苗束抛りし空の浅間山      福田蓼汀


 田植も含めて詠まれた歌をいくつかあげよう。


  昨日こそ早苗とりしかいつのまに稲葉そよぎて秋風ぞ吹く
                  古今集・よみ人しらず
  時すぎば早苗もいたく老いぬべし雨にも田子はさはらざりけり
                     紀 貫之
  峰の松入日すずしき山かげの裾野の小田に早苗とるなり
                     順徳院
  きのふけふ時来にけりと時鳥鳥(と)羽田(ばた)のおもに早苗
  とるなり               加茂真淵


  わが子をばいくさにやりて里の爺(をぢ)がむすめと二人早苗
  とるなり               落合直文


  少女等に放りてくばる苗束の苗のちぎれは手に青青し
                     吉植庄亮
  新嫁のつつましげなる田植唄たのもすずしき朝風ぞふく
                     佐佐木信綱
  少女二人田を植ゑをりてその顔に明るき水の反映動く
                     板宮清治


    田植機の苗うすき場所あるき足す