天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ひぐらし

二宮町吾妻山にて

 漢字では、蜩、茅蜩、晩蝉 などを当てる。セミ科の昆虫。翅は透明で、緑と黒の斑紋がある。その鳴き声から「かなかな」とも呼ぶ。「ひぐらし」と「つくつく法師」は、見ただけでは区別がつけにくい。鳴き声を聞けばすぐにわかるのだが。
万葉集には9首が詠まれている。


  隠(こも)りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば
  来鳴く晩蝉           万葉集大伴家持


  晩蝉は時と鳴けども片恋に手弱女われは時わかず泣く
                  万葉集・作者未詳
  ひぐらしの声きく山の近けれや鳴きつるなべに夕日
  さすらむ             古今集紀貫之


  夕立の雲もとまらぬ夏の日のかたぶく山にひぐらし
  こゑ            新古今集式子内親王


  ひぐらしの一つが啼けば二つ啼き山みなこゑとなりて
  明けゆく                四賀光子


  大方は決まりしわれの半生とひぐらしの鳴く落日朱し
                     武川忠一
  蜩は響き啼きけり彼の国のジャムもリルケも知らざりし
  こゑ                 宮 柊二


  ひぐらしのおもひおもひのこゑきけり清七地獄すぎて
  ゆくころ              小野興二郎


  木をかへてまた鳴きいでしひぐらしのひとつの声の澄み
  徹るなり               岡野弘彦