天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

彼岸花

北鎌倉の谷戸にて

 曼珠沙華、きつね花、死びと花、幽霊花、捨子花、天蓋花、カミソリバナ などの多様な呼び名があることはよく知られている。ヒガンバナ科多年草で古く中国から渡来したという。リコリンなどのアルカロイドを含み有毒。昔は鱗茎を水でさらして有毒成分を除去して食用にしたというから凄まじい。なお、鍾馗(しょうき)水仙(すいせん)という黄色のユリ科ヒガンバナ属の多年草があり、彼岸花そっくりの形状なので注意を要する。彼岸花が枯れた後の時期に開花するようだ。


  みしことのわずか光ると思うときまんじゅしゃげ
  明るすぎて雨ゆく         馬場あき子


  あかあかとほほけて並ぶきつね花死んでしまえば
  あれっきりだよ           山崎方代


  毒少し秘め合ふことも生きやすく彼岸花人里近く
  自生す              富小路禎子


  いたみもて世界の外に佇つわれと紅き逆睫毛の
  曼珠沙華              塚本邦雄


  夏ゆけばいつさい棄てよ忘れよといきなり花になる
  曼珠沙華              今野寿美


  風を浴びきりきり舞いの曼珠沙華 抱きたさはときに
  逢いたさを越ゆ           吉川宏志


  死びと花薙ぎ倒したる子ら去りてやがて一面闇がおおえる
                    高瀬隆和


 小田急線・湘南台駅西口のバス停から慶応大学行に乗って終点で下車。キャンパス内を田畑のある側に十分ばかり歩けば、小出川に出る。細い野川なので知る人ぞ知る。この川沿いに彼岸花が延々と咲くので、名所になっている。ということをつい最近知った。


     死人花ゆれて飛び立つ黒揚羽
     とほくまで野川に添へる彼岸花
     台風に稲のひれ伏す田んぼかな
     川沿ひの彼岸花見る野立かな
     狼藉の跡悲しむやちちろ虫
     稲穂垂れ東西南北威銃(おどしづつ)