天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

湯河原梅林

湯河原幕山梅林にて

 満開ではなかったがやっと名にし負う梅林に出会えた。湯河原駅からバスで十五分ほどの幕山公園である。新緑の時期だと山頂まで登ってくるのだが、この時期ではその気になれない。
ただ、満開の梅林を山頂から見下してみたい。見えるかどうか心もとないが。ふもとの路には早、犬ふぐりの花が咲いていた。


     梅林を眼下にしたる岩登り
     紅梅の下に茣蓙敷く宴かな
     見るほどに数の増ゆるかイヌフグリ
     野に落ちし星が笑ふかイヌフグリ
     雪解けの水を落せる滝の音
     花桃の重く枝垂るる雪解川


  白梅が紅梅よりも匂ふといふ鼻のふくらむ幕山の道
  垂直にロープ垂れたり梅林を眼下にしたる柱状節理
  うぐひすが宿りするとふ梅の木に顔寄せて嗅ぐ白き花の香
  梅林の三割ほどが花ひらく弥生七日の幕山の道
  雪解けの水音高き川の辺にイヌフグリ咲く天空の色
  くれなゐの梢の中に花を見る湯河原駅のホームのベンチ


 そして一週間後に再度訪れた。今回は幕山の頂きに登ってきた。数年ぶりになるか。枯れ芒に春風が吹いていた。麓近くまで下りてくると、そこまで登ってきた老夫婦が、山頂から梅林は見えるか、山頂までどれくらいかかるか、と尋ねるで、梅林は全く見えない、山頂までは一時間をみたらよい、と答えたら、あきらめて引き返すという。


     梅林へ声通りくる選挙カー
     幕山のふもとは梅の宴かな
     梅林や柱状節理にロープ垂る
     幕山の崖よぢ登る梅の花
     紅梅に顔寄せてゐる散策路
     山頂は春風の吹く芒かな
     春風や桜の幹のつやめける


  一週間前に治りし足なれば歩幅小さく山道をゆく
  梅林のつぼみほころぶ三月の今日あたたかき幕山の道
  山頂へ歩幅小さくのぼりゆく真鶴岬を右に見下し
  杉花粉防ぐマスクに息継げば馬酔木は固き花芽垂れたり
  この数年のぼらざる間に道の辺の桜の幹は太りたりけり
  来る度に肌を撫でやる桜木の今年の幹は力漲る
  腰下ろしマスク外して山頂の芒の風に吹かれてゐたり
  幕山の頂きゆ見る湯河原の家並あやふし大津波
  幕山の中腹にきて訊かれけり山頂までの所要時間を
  看板は猿に注意と告げたれど姿見ざりき杉花粉とぶ
  湯河原の梅の宴を見てくれば駅のホームに目が痒くなる
  湯河原の駅のベンチの座布団に座れば熱海桜咲く見ゆ


[注]湯河原梅林の開花状況は、3月19日時点で、七分咲きとのこと。お出かけの際には、インターネットでご確認下さい。