天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

春の腰越

腰越にて

 BS朝日「ニッポン絶景街道」の鎌倉街道編を見ていたら、驚いたことにわが定番の散策スポットばかりが紹介されていた。鶴ケ丘八幡宮、うなぎの鶴屋、大仏の高徳院成就院の山門から望む由比ヶ浜極楽寺切通し、力餅屋、腰越の満福寺、藤沢の義経首洗い井戸、白旗神社 などである。
 それで今回は腰越に出かけた。片瀬や腰越の浜には、春の日差に若布が干されていた。満福寺に入って、今までに何度も見た腰越ノ状(の写し)を覗きこみ、笹竜胆の家紋を胴に書いた古い鎧を見た。帰りに、日蓮法難の地とされる龍口寺に寄って五重塔を見上げ光松(の子孫)に触れた。


     青空にひろぐる枝の芽吹かな
     影淡し片瀬の浜に若布干す
     干すほどに若布ちぢれて乾きけり
     潮騒のこゆるぎ岬春の鳶
     頭上過ぐ翼みどりの春の鳶
     白梅や龍が水吐く手水鉢
     弁慶の手玉石とぞ春うらら
     腰越ノ状見て後のしらす丼
     雪解けて木々をしたたる池の面
     水仙の花の香をかぐ光松


  大空にひろぐる枝の芽吹く見ゆ双眼鏡に小鳥追ふとき
  高鳴ける雄の鴉を避けてゆく雌の鴉の足跡の浜
  靴跡と犬の足跡ならびたる波打ち際は春の潮騒
  春風に吹かるる夫婦潮騒の片瀬の浜に若布切り干す
  「小動(こゆるぎ)の松」の由来を読みをれば龍が
  水吐く洗心の鉢


  そのかみの風のなき日に揺れしといふ今に残れる
  小動(こゆるぎ)の松


  弁慶の手玉石あり義経がとどめをかれし腰越の寺
  腰越ノ状を案ずる義経の心みだせる蟋蟀のこゑ
  こほろぎを叱りつけたる弁慶がなほも案ずる腰越ノ状
  こほろぎの声やみにけり義経が涙して書く腰越ノ状
  義経の涙の訴状とどかざり遠く聞こゆる春の潮騒
  義経が身につけしこと思はする笹竜胆の古き鎧は
  笹竜胆を胴に書きたる鎧あり八艘とびの義経想ふ
  「旅」「やすらぎ」「絆」「笑顔」など刻みたる墓碑
  あまた立つ腰越の丘


  丹沢の春の雪嶺馬手に見ゆ義経しのぶ腰越の丘