天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

富安風生

かんぽの宿箱根にて

 姥子のかんぽの宿の入口には、次の句碑がある。


     ひともとの姥子の宿の遅ざくら
                風生


作者の富安風生(本名:謙次)は、東大法科を卒業して郵政省の前身である逓信省に入り、電気局長や逓信次官にまでなった官僚である。俳句では、高浜虚子に師事し「ホトトギス」同人として活躍した。逓信省内の俳句雑誌「若葉」の選者となり、のちにこれを自身の主宰誌とした。享年九十九歳(明治18年―昭和54年)。かんぽの宿が、郵政省の関係から句碑を作った、と思われる。
風生の句風は、温雅、中庸と言えるもので、日常生活のなかで心に浮ぶことや所見をより巧みに表現して生活を精神的に豊にする。代表的な作品を五句あげよう。


     羽子板や母が贔屓の歌右衛門
     秋晴や宇治の大橋横たはり
     白足袋のよごれもつかずぬがれけり
     みちのくの伊達の郡の春田かな
     よろこべばしきりに落つる木の実かな