天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鑑賞の文学―俳句編(44)―

青磁社刊

 長谷川櫂さんの新刊句集『沖縄』(青磁社)を読んだ。句集名は「沖縄」であるが、他に「夏の死」と「火車」の二章が入っている。「沖縄」の章は、沖縄の自然環境と現状並びに太平洋戦争で受けた戦禍を対比させて、沖縄にあらためて注目している。
 句集を読んでいくと、特徴的な技法に気付く。リフレイン、擬人法、直喩である。それぞれ八句ずつ例をあげよう。


 *リフレイン
     さみだれの島さみだれの海の上
     島百合の村でありしを村滅ぶ
     百合滅び白き百合根も滅びけり
     旅の神かでなかでなと嘆きつつ
     壊れゆく国はかなかなかなかなと
     面影のおぼろおぼろや飴山忌
     日の仏月の仏や秋白し
     一しぐれ二しぐれ又しぐれけり

 *擬人法
     絶叫の口ひらきたる目刺かな
     銭湯の富士も出世や風薫る
     白玉の顔を並べて夕涼み
     けさ夏が死んだと風がささやきぬ
     もう秋の顔をしてゐる土瓶かな
     哭きながら空をさすらふ秋の風
     冬波はみな荒海の娘かな
     蓑虫は泣きくたびれて眠りけり

 *直喩
     大海のうねるがごとく春動く
     龍の目の動くがごとく春の水
     大志ある人のごとくに朝寝かな
     風雅とは南瓜の花のごときもの
     日と月のごとく対して永き日を
     羽織きて山のごとしや春の人
     一枚の影のごときを土用干
     葦笛は夏の巨人を呼ぶごとし


 それぞれの手法の効果を吟味する上で参考になる。