日本固有の鳥には、十二種(アオゲラ、エゾアカゲラ、エゾコゲラ、オナガドリ、オリイオオコウモリ、カヤクグリ、カラスバト、コシジロヤマドリ、ショウコク、日本イヌワシ、ニホンキジ、ルリカケス)があるという。ただ、こうした名称は、近現代に付けられたようで、古典和歌の時代には、なかった。例えば、万葉集に詠まれている鳥には、二十二種の名前のついた鳥がでてくるが、日本固有種は少ない(山鳥、鷲、雉)。
日本の詩情の基本は、古来、花鳥風月とされるが、鳥については、春のウグイス、夏のホトトギス、秋のカリ、冬のチドリ と代表が確定している。万葉集、古今集、新古今集の三歌集において、これらの季節の鳥が多く詠まれている傾向は共通している。各歌集について調査の結果、多く詠まれた鳥を五位まであげると、次のようになっている。
歌集 一位 二位 三位 四位 五位
万葉集 郭公 雁 鶯 鶴 鴨
古今集 郭公 鶯 雁 千鳥 鶏 千鳥と鶏は同位
新古今集 郭公 雁 千鳥 鶯 鶴
三歌集において、一番多く詠まれた鳥が「郭公(ほととぎす)」で共通していること、また新古今集では、鶯の歌の数が少なくなっていること、に感銘を受ける。今回の調査によると、万葉集では、鶴、鴨、千鳥 なども多いが、古今集や新古今集では、分布が三位までの鳥に偏重している。ちなみに、俳諧の発句(俳句)について芭蕉(976句、1694年没)の場合を調べると、一位はやはり郭公で最多だが、二位は雲雀、三位に鶯、雁、鶴、千鳥、雀 などとなっている。
次に、これら歌集独自に詠まれた鳥を見てみよう。まず万葉集だけに出てくる鳥の例歌を一首ずつ。
山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば
大和には群山あれど・・・海原は、鴎立ち立つ、・・・ (長歌)
朝烏早くな鳴きそ我が背子が朝明の姿見れば悲しも
池神の力士舞かも白鷺の桙啄ひ持ちて飛び渡るらむ
白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ我が恋ひわたるこの月ごろを
燕来る時になりぬと雁がねは国偲ひつつ雲隠り鳴く
久方の天の川原にぬえ鳥のうら歎げましつすべなきまでに
うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば
秋の野の尾花が末に鳴くもずの声聞きけむか片聞け我妹
「あぢ」「鷗」「烏」「白鷺」「白鳥」「燕」「ぬえ鳥」「ひばり」「もず」などの九種である。「あぢ」や「ぬえ鳥」は珍しいが、他のよく知られた鳥たちが詠まれていないのは、心外といえる。
古今集だけに詠まれている鳥は無い。ところが、新古今集になって詠まれた鳥には、以下の例歌のように六種(鶉、鵲、鵜、山鳥、鷹、鷲)もある。
秋を経てあはれも露もふかくさの里とふものは鶉なりけり
鵲のわたせる橋に置く霜のしろきを見れば夜ぞ更けにける
鵜飼舟あはれとぞ見るもののふのやそ宇治川の夕闇のそら
雲のゐる遠山鳥のよそにてもありとし聞けば侘びつつぞぬる
はし鷹の野守の鏡えてしがなおもひおもはずよそながら見む
鷲の山今日きく法の道ならでかへらぬ宿に行く人ぞなき
注意: これら六種は、古今集より後の新古今集より前の歌集に詠まれていることは大いにありうる。例えば、「山鳥」は拾遺集には出て来る。本シリーズでは、万葉集、古今集、新古今集の三歌集での比較なのである。