天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「憎む」(5/5)

  とかげのやうに灼けつく壁に貼りつきてふるへてをりぬひとを憎みて
                       河野裕子
  まっしぐら坂くだり来てヒュマニストを憎むついでにインテリ憎む
                      岡部桂一郎 
*ヒュマニストやインテリが具体的な人物をさすのか、あるいは概念上の人種を
 さすのか不明だが、初句二句の表現になぜか説得力あり。

 

  憎み来し彼と彼と彼を忘れ得ず移り来し職場にチョークを持ちて
                       内田 弘
*三人の彼とは、もう付き合いはないのだろうか。憎しみのゆえに職場を移った
 ように思えるのだが。


  あら塩のあるときは手に飛礫(つぶて)なす思いよ人を憎みていたり
                       水野久子
*人を憎んでいると、あら塩を手にもっている時、あたかも飛礫を握っているが
 ごとく感じる、というのだろう。

 

  犀よ犀 その厚き皮膚を給えかし憎しみも雨も円く弾かん
                      松村由利子
  憎み合ふたのしみも今読めりとも知れりとも嗚呼
                       小暮政次
*なにか書物を読んでいて、憎み合ふたのしみを知ったというのだろうか。

 

  争えば人憎むゆえ争いを避けて蔑(なみ)さる消極的と
                       大下一真

 

 以上見て来たように、憎しみは気が滅入るほどの感情である。歌に詠んでも
決して癒されない。まことに厄介。

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蜥蜴 (webから)