果物のうたー桃(1/3)
向つ峰(を)に立てる桃の樹成らむかと人そ耳言(ささやく)く汝(な)が情(こころ)ゆめ
万葉集・作者未詳
*「向こうの峰に立つ桃の木に、実はならないのかと世間が気にしてささやいている。
でも君は安心なさい。」
わが宿の毛(け)桃(もも)の下に月夜さし下心(したごころ)良しうたてこのころ
万葉集・作者未詳
*下心: は自分の心の奥。 うたて: 「しきりに」で、日常と異なる心理状態。
文字通りの意味は、「家の庭先の毛桃の下に月の光がさしこんでそこがとても
心地良いこの頃です。」
しかし、実はこの歌は比喩歌とされ「桃」は 大切に育てている娘、「月夜さし」
は「月水」すなわち娘の「初潮」をさすと言う。つまり「大切に育ててきた娘が
初潮を迎えどうやら女性して一人前になったようだ。嬉しいやら 照れくさいやら
という母親の喜びを詠んだと解する。
たちぬはぬ衣の袖しふれければみちとせふべきもももなりけり
夫木抄・源 俊頼
*たちぬはぬ衣: 無縫の衣。 歌の下句は、三千年前からあるという桃も成ったよ、
という。
ひとつ篋(はこ)にひひなをさめて蓋(ふた)とぢて何となき息(いき)桃にはばかる
与謝野晶子
島山の桃のくれなゐ近く見えわが船すすむ春雨のなかを
古泉千樫