天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

果物のうたー桃(2/3)

  ただひとつ惜しみて置きし白桃(しろもも)のゆたけきを吾は食ひをはりけり
                     斎藤茂吉
*白桃: 明治32年に、岡山県で発見された桃の品種で、水蜜桃の一種。
 この歌は、白桃の特性をみごとに表現している。茂吉の代表作のひとつ。

 

  桃むく手美しければこの人も或はわれを裏切りゆかん
                    真鍋美恵子
*女性の桃むく手を見て、彼女は作者をやがて裏切る(自分の恋人を奪う)
 と感じた。なんともリアリティがある。

 

  桃の木は懈(たゆ)くしづけし秋の日に実の毮(もぎ)られし後を立ちをり
                     宮 柊二
  桃二つ寄りて泉に打たるるをかすかに夜の闇に見ている
                     高安国世
*上句の情景は、なんとも幸福そうであり艶めかしくもある。

 

  墓買いにゆくと市電に揺られつつだれかの籠に桃匂いおり
                     寺山修司
  かくれ得て生きし一日をわが生にかかわりもなき桃が貴し
                     伊藤一彦
*人の目を逃れて過ごした日に、どこかで桃を見かけたのだろう。「わが生に
 かかわりもなき桃」という表現に説得力がある。

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