衣のうたー履物(4/4)
きみが靴にわが小さきを並べ置くそれさへ不可思議のごとき朝(あした)よ
今野寿美
*結婚生活を始めたばかりの感想であろう。
背なか一面皮膚はがれきし少年が失はず穿く新しき靴
竹山 広
*生きることの悲しさと少年のたくましさを感じる。
今ぬぎし靴玄関の灯(ひ)を浴びる自画像に似てさびしわが靴
秋葉四郎
*自分の靴に自画像を感じるのはわかる気がする。
靴底に釘逆立ちて刺すまでの日々とおくしてとりとめもなし
有川美亀男
草むらにハイヒール脱ぎ捨てられて雨水(うすい)の碧(あを)き宇宙たまれり
栗木京子
入口に夫を待たせ靴を買ふ降誕祭の電飾うつくし
栗木京子
あすは寒くなる夜の靴の尖ひかり帰り着かねばならず歩めり
上野久雄
魔女の履く靴に似るかなこっそりとつり革に凭れる「魔女」を見上げる
生田澄江
無為にして祈りのごとしわが靴と亡きものの靴ならべて磨く
ぬきわれいこ
旅好きの夫がいま在るはどのあたり 貴方の靴はここにあります
吉田員子
*夫はいつもの靴を家に置いて、別の靴をはいて旅に出たということだろう。夫が不在で靴だけが残っているのは、不安である。
[参考]靴のうたについては、本ブログで2015年7月20日から30日まで、9回にわたって詳細を記述しているので、ここでは重複を最小限に絞った。