穴のうた(1/2)
「穴(あな)」は、孔とも表記するが、辞書を見ると次のように意外に多くの意味がある。
1 反対側まで突き抜けている空間。
2 深くえぐりとられた所。くぼんだ所。
3 損失、欠損、空白、欠点、弱点。
4 他人が気づかない、よい場所や得になる事柄。穴場。
5 競馬・競輪などで、番狂わせの勝負。配当金が多い。
6 世間の裏面。うら。
歌ごとにどの意味か注意を要する。1,2の場合が多い。
門立てて戸は閉(さ)したれど盗人の穿(ほ)れる穴より
入りて見えけむ 万葉集・作者未詳
大いなる穴のごときに向ふごと霞ふかくなり昼すぎてゐつ
前川佐美雄
氷原に穴を穿ちて漁(すなど)れるを見つつし寒し覇県
(はけん)への道 渡辺直己
なるようになってしもうたようである穴がせまくて引き
返せない 山崎方代
わが胸郭鳥(ほととぎす)のかたちの穴もてり病めばある日を
空青かりき 寺山修司
熱燗の酒くる待ちているあいだ辛子蓮根の穴覗きおり
石田比呂志
ふりかけるたびに出過ぎるなかぶたの穴の太さにつきて考ふ
草市 潤
職場といふ穴より夕べ這ひ出でて賑ふ街にスカーフを買ふ
栗木京子
おびただしき穴おとこらに掘られいて恥深きかなまひる
わが街 伊藤一彦