天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー果物(5/7)

 北半球では古くから各地で野生イチゴの採集と利用が行われていたが、日本には江戸時代にオランダ人によってもたらされた。イチゴが一般市民に普及したのは1800年代であり、本格的に栽培されたのは明治5年から、という(百科事典による)。

蛇いちごは、蛇の出そうな草むらに生えるところからの命名で毒があるとの俗説だが、実際は無毒。

 

  手づくりのいちごよ君にふくませむわがさす虹の色に似たれば

                   山川登美子

  苺たべて子のいき殊に甘く匂ふ夕明り時を母に寄り添ひ

                   五島美代子

  一皿の苺に今宵寄り合へりわれら貧しさを隠すことなく

                    扇畑忠雄

  冬の苺匙に圧(お)しをり別離よりつづきて永きわが孤りの喪(も)

                   尾崎左永子

*離婚した後の心情であろう。

 

  今は末に近しとぞいふ苺をば匙もてつぶす真白き皿に

                    窪田空穂

*「末」とは、当時の時勢を差すのだろう。

 

  木苺のいまだ青きをまがなしみ噛みてぞ見つる雨の山路に

                    古泉千樫

  蛇いちごほのかに赤しその君のその唇は吸ふよしもなし

                    吉井 勇

  蛇いちご吸はばまことに死なんかとかりそめにだに思ふ身あはれ

                    原阿佐緒

  バングラへ行く若者を励ますと冬の苺に振る粉砂糖

                    芝谷幸子

バングラとは、バングラデシュ人民共和国のことで、北と東西の三方はインド、南東部はミャンマーと国境を接し、南はインド洋に面する。

  整然と並ぶいちごの種子のさま畏(おそ)れそののち食いてしまえり

                    沖ななも

  ひかり溜めおのれ粛粛と色満たす冬苺を志野の皿に並べつ

                    大滝貞一

  この藪の野苺の実はゆくさくさ吾のみ食みて今日なくなりぬ

                    仲 宗角

*「ゆくさくさ」とは、行くとき来るとき。往来の際。つまり藪の付近を行ったり来たりする際に、野イチゴを食べたのだ。

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