天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー道浦母都子『食のうた歳時記』(7/8)

[冬]

  わが物にあらねど蜜柑を山と積み店に売りをれば人の世たのし

                        前川佐美雄

  蟹の肉せせり啖(くら)へばあこがるる生れし能登の冬潮の底

                         坪野哲久

*作者は石川県羽咋郡志賀町出身。つまり能登が故郷である。この歌の碑が志賀町図書館横に夫人の山田あきの歌碑と並んで立っている。

 

  白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる

                         俵 万智

  水桶にすべり落ちたる寒の烏賊(いか)いのちなきものはただに下降す

                         稲葉京子

*下句にきて粛然となる。人間の身にも当てはまるような。

 

  手づくりのいちごよ君にふくませむわがさす紅の色に似たれば

                        山川登美子

*「君」とは、与謝野鉄幹であろう。鉄幹を慕っていたが親の勧めた縁組により別の男と結婚した。

 

  粥鍋のなずなななくさ春浅き穂草の強(こわ)さ 胸に火がつく

                         佐伯裕子

*なずな: 別名「ペンペングサ」というアブラナ科の越年草。畑や道端に多い。

春の七草のひとつ。この歌では「なずなななくさ」の「ナ」音の重なりが心地よい。

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