果物のうたー苺
手づくりのいちごよ君にふくませむわがさす虹の色に似たれば
山川登美子
*下句は、口紅のこと。
苺たべて子のいき殊に甘く匂ふ夕明り時を母に寄添ひ
五島美代子
一皿の苺に今宵寄り合へりわれら貧しさを隠すことなく
扇畑忠雄
冬の苺匙に圧(お)しをり別離よりつづきて永きわが孤りの喪(も)
尾崎左永子
*別れた人が亡くなって時間が経った状況か。苺が思い出のひとつだったのだろう。
バングラへ行く若者を励ますと冬の苺に振る粉砂糖
芝谷幸子
*バングラ: バングラデシュ人民共和国。通称、バングラデシュ。
ゆるゆるとガーゼに苺包みつつある日つつましく膝を立ており
加藤治郎
整然と並ぶいちごの種子のさま畏(おそ)れそののち食いてしまえり
沖 ななも
ひかり溜めおのれ蕭蕭と色満たす冬苺を志野の皿に並べつ
大滝貞一
玻璃盤に露のしたたる苺かな 夏目漱石
死火山の膚つめたくて草いちご 飯田蛇笏