心を詠む(16/20)
擬死つづけゐる一匹を炎天にはじき飛ばして心すこし起く
竹山 広
*擬死の主体が不明。昆虫なら、コガネムシ、ゾウムシ、コメツキ などがいるが、それがどこにいたのかも分らない。服にじっと止まっていたのだろうか。
あきらめの岸にこころを導かむうすくらがりの一脚の椅子
竹山 広
*上句が持って回った言い方だが、要するにあきらめようということ。
電話終へてしばらくこころ濃くをれば鬼の信長火の中に立つ
竹山 広
*下句の表現から、電話の内容を読者に想像してほしい、という作りになっている。
みづからに恃むこころの揺らぐとき掌のなかに風ありと思はん
山内照夫
*下句が独特の感性。解説しにくいが分かる気がする。
沖あひの浮きのごとくに見えかくれしてゐるこころといふけだものは
反逆のこころ遊ばせゐるわれをかひなに捲きて眠りゆくらし
高橋協子
*下句の主体は恋人なのだろう。
馬を洗はば馬のたましひ冴ゆるまで人恋はば人あやむるこころ
*塚本邦雄の代表歌の一首。
朝顔の貌かさなれり一人一人死してそのこころをのこすのみ
*朝顔の花が重なっている情景から、人間の死について思いを詠ったのであろう。