天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

蜜柑の花

 昔は食用柑橘類をタチバナと総称し、奈良時代にはその実を「香(かぐ)の菓(このみ)」といった。蜜柑の文字は室町時代に出てきた。庶民が食べるようになったのは、江戸時代からという。

 

     柚の花や能き酒蔵す塀の内       蕪村

     うたたねをわが許されて蜜柑咲く  中村汀女

     旅一夜蜜柑の花を枕辺に     山口波津女

     潮風の止めば蜜柑の花匂ふ      瀧春一

     人ごゑの清潔な朝蜜柑咲く     藤田湘子

     軒下に黄ばみしスピッツ花みかん  中原鈴代

     人にあふも花たちばなの香にあふも 山口青邨

     橘の花やしたがふ葉三枚      星野立子

     吸物にいささか匂ふ花柚かな    正岡子規

     柚の花に噎せて別れし後影     石川桂郎

 

  我友は蜜柑むきつつしみじみとはや抱(いだ)きねといひにけらずや

                      斎藤茂吉

  ぢつとして、蜜柑のつゆに染まりたる爪を見つむる心もとなさ

                      石川啄木

  街をゆき子供の傍(そば)を通る時蜜柑の香(か)せり冬がまた売る

                      木下利玄

 

蜜柑の花