蜜柑
むかし、食用柑橘類はタチバナと総称された。奈良時代、その実を「香の菓(かぐのこのみ)」と言った。蜜柑という文字は、室町時代の『尺素往来』という書物に初めて現れるという。
我友は蜜柑むきつつしみじみとはや抱(いだ)きねといひに
けらずや 斎藤茂吉
たそがれの、蜜柑をむきし爪さきの
黄なるかをりに、
母をおもへり 土岐善麿
街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る
木下利玄
甘酸ゆき香の流れくる山の畑みかんは揺るるうなずくごとく
武川忠一
雪は降る 蜜柑のなかに雪は降る 彼岸の母の持てるみかんに
高松秀明
少年の手の落したるみかん一つ河原の石に輝きはずむ
馬場あき子
雪の夜を別れ来ぬれば紀の国の黄金(きん)のみかんを恋ひ
わたるべし 松坂 弘
山庭は蜜柑たわわにみのり照り黄亜麻(きあま)花むらに
新春(にひはる)きたる 佐佐木信綱
卓上の香の菓を手にとれば延坪(ヨンピョン)島に
煙焔(えんえん)は立つ