天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌集『夜のあすなろ』(4/6)

*リフレインによる韻律の工夫

  狂はない狂はば狂へ なかぞらに月をひく馬ふいにあらはれ

  秩父路のよぢれよぢれのいつぽんの柘榴(ざくろ)に積もる雪をおもへり

  山の影抱(いだ)きわづかに紅葉(もみぢ)する山のかなたに山けぶりゐき

  散り残りまたちりのこり飛切りのさくらもみぢの果ての蒼穹

  幼子は捩れあひまたわらひあひ清めの席のかたへに遊ぶ

  「道祖神」と彫りあるのみの道祖神かこみて喇叭水仙咲いて

  雪解けしところを歩むシャンゼリゼ鳩が寄りくる掏摸(すり)が寄りくる

  ザザムシのザザは浅瀬のことと知る 天竜川のせせらぎきこゆ

  濡れてゐたり乾いてゐたりする舗道 囚はれ人の如く見おろす

  かぞふれば十七日か寝るも起きるも座るも痛し一歩もあゆめず

  カルデラのなかに田居あり家居あり湯の宿はあり阿蘇にてねむる

  重畳の山つらぬけどつらぬけどふかき緑の紀州を出でず

  ぷつくりと赤くイチイの実は熟れて子をとろことろ花いちもんめ

  きのくにを巡りし終(つひ)の旅なりきゆくてゆくてにトンネルはあり

  海ほたるいづくの海も薄荷(ハツカ)いろ海ちかくゐて海に触れえず

 

道祖神