歌集『夜のあすなろ』(4/6)
*リフレインによる韻律の工夫
狂はない狂はば狂へ なかぞらに月をひく馬ふいにあらはれ
秩父路のよぢれよぢれのいつぽんの柘榴(ざくろ)に積もる雪をおもへり
山の影抱(いだ)きわづかに紅葉(もみぢ)する山のかなたに山けぶりゐき
散り残りまたちりのこり飛切りのさくらもみぢの果ての蒼穹
幼子は捩れあひまたわらひあひ清めの席のかたへに遊ぶ
雪解けしところを歩むシャンゼリゼ鳩が寄りくる掏摸(すり)が寄りくる
濡れてゐたり乾いてゐたりする舗道 囚はれ人の如く見おろす
かぞふれば十七日か寝るも起きるも座るも痛し一歩もあゆめず
重畳の山つらぬけどつらぬけどふかき緑の紀州を出でず
ぷつくりと赤くイチイの実は熟れて子をとろことろ花いちもんめ
きのくにを巡りし終(つひ)の旅なりきゆくてゆくてにトンネルはあり
海ほたるいづくの海も薄荷(ハツカ)いろ海ちかくゐて海に触れえず