天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

田谷山瑜伽洞

田谷の洞窟

 通称田谷の洞窟という。真言宗大覚寺派・定泉寺の境内にある。受付で三百円を払うと一本の細い蝋燭と半券をくれる。半券の説明によるとここはもと鶴ヶ丘廿五坊の修善道場で、開創は鎌倉時代初期という。江戸時代にいたるまで拡張され上下三段、延長一粁の壮大な規模になった。地質が粘板岩の巨大な一枚岩の中にこの洞窟は掘られた。半券には次の歌が書かれている。
    たづね入る心深くばみほとけにあいなむここは観法の洞


   一筋の細き蝋燭あやぶみて行者道ゆく田谷の洞窟
   らふそくを翳して仰ぐ闇ふかき石窟奥の厄除大師
   行者道わが靴音の止みたれば奥にひびかふしたたりの音
   天井に三つ蝙蝠はりつけり水子の霊と聞きてさしぐむ
   金剛界曼荼羅窟に入りたれば梵字に見ゆる菩薩と如来
   金文字の納めがへしの札あまた一願円満成就御禮
   完熟のグレープフルーツ召し上がれ露しとどなる弥勒菩薩
   瑜伽道場壁にならべて彫られたる五大明王湿りて暗き
   奥之院金剛水のひとすじを手指に受けて額に当つる
   たくましき十八羅漢に導かれ音無川を彼岸へわたる
   みどりなす光の出口見えしとき安鎮国家不動明王
   胡散臭きわが信心を見破るか走り出できてにらむ黒猫




 鶴ヶ丘八幡宮直会殿で開催中の鎌倉明治会創立四十周年記念展にゆく。

      けたけたと栗鼠なきわたる青葉闇

   歴代の天皇の顔見る思ひ墨絵に描きし明治の御影
   大勢の女官とともに天覧の上野不忍大競馬之図
   平服に喪章つけたる漱石が青山葬場殿に思案す