天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

洒水の滝

洒水の滝

 丹沢山系にもそろそろ紅葉前線が降りてきた。ひさかたぶりに山北を訪う。河村城址を越え洒水の滝へと歩く。山北は、相模・甲斐・駿河の三国の境界にあたるため、砦があちこちに築かれたらしい。特に河村城は甲斐、駿河から足柄にいたる交通の要衝にあたった。その築城は、平安時代末期にさかのぼる。鎌倉時代南北朝、戦国時代と城は続くが、秀吉の小田原城攻めの際に落城して以後、廃城になったらしい。
 洒水の滝の水源は、矢倉岳あたりの山塊である。この滝は、後白河上皇の忌諱にふれて伊豆に流された文覚上人の修業の場であったという。八月に落石があったため、残念ながら滝壺へのぼる道は通行止めになっている。いたしかたない。以前きた時たち寄った「さざれ石」という茶店で、今回もホットコーヒーを注文した。日本の名水百選の滝水で入れた珈琲は、四百円。うまいと思う。前にきた時は、河鹿の声がしたが、今の時期は、滝水の音だけが聞こえる。


        山北の太鼓さみしき秋祭
        担ぎ手の少なき神輿秋まつり
        たたなはる山うすづけるもみぢかな
        滝口の見えざる山のもみぢかな
        霜月の滝ひとすぢや朝日影
        秋ふかし洒水の滝ををろがめる
        うすづける紅葉の山の瀑布かな
        丈高き滝のひとすぢ山もみぢ
        さざれ石の珈琲熱き山もみぢ
        水神の石碑黒ずむ川の秋
        高みより鳶舞ひ出づる山の秋
        両側にもみぢかつ散る鉄路かな


   きやうだいが少しづつ食ひ母が食べ祖母(おほはは)が終ふ
   駅弁ひとつ


   日本人らしく見ゆれど美しき英語しゃべれり乙女
   ふたりは


   たうたうとひとすぢ落つる滝水にはだらなしたる朝の
   木漏れ日


   ひとすぢの滝を見上げて手合はせる女かなしもいつまでも
   立つ


   さざれ石洒水の滝の名水をあぢはひて飲む熱き珈琲
   軒先に幣はりわたす大通り太鼓たたきて神輿が通る