天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー秋(8/11)

平成十九年 「日の斑」              

     川沿ひに滝を目指せる紅葉かな

     秋雨や大樹を小鳥棲みわけて

     蟷螂の若きが泳ぐにはたづみ

     秋風の釣果を競ふ魚拓かな

     日の丸の風に散り交ふ銀杏かな

     里山の日の斑にひろふ木の実かな

     江ノ電に触るる尾花もありにけり

     松籟にまぎれて遠し鹿威

     葷酒山門に入るを許さず酔芙蓉

     松籟の風ふところに秋の僧  

     権現はむくげ花散る祠かな        

     「禁煙」の立札にらむ鬼やんま

     黒犬の二頭放てる浜の秋

     みそはぎの根本にひかる谷戸の水

     橋下にオーボエを吹く川の秋

     秋立つと谷戸の竹林さやぎけり

 

平成二十年 「透きとほる」             

     三頭の乳牛を飼ふ曼珠沙華

     ぎんなんのおもたく落ちて地にほふ

     さまざまの身なりにならぶ案山子かな

     石榴垂る人間魚雷の残骸に

     地に落ちてつぼむ花なり酔芙蓉

     穂芒やSLを待つカメラマン

     丹沢の山並みに沿ふ秋の雲

     煩悩の秋の残り火妻を抱く

     太陽の雫なりけり柿を食ふ

     椋鳥のこぼれんばかり欅かな

     風に鳴る木々の落とせる木の実かな

     相模路の闇ふかくする門火かな

     啄木鳥や縄文人の棲みし森

     鳶啼けばひぐらし声をひそめけり

     蓮の実のふとりて花は散るばかり

     一里塚跡と書かれて彼岸花

     狗尾草(ゑのころ)に飽かずとびつく雀かな

     江ノ島や葛の花ちるたつき

     鎌倉やぼんぼり点す秋立つ日

     秋深し踏み込みがたき寺遺跡

     もののふが住まひの跡や萩の花

     還暦を越えたる象の残暑かな

     秋立つや野山をはしる雲の影

     海浜のサーカステント天高し

     通り雨過ぎてふたたび盆踊り

     還暦の象たゆたへる残暑かな

     もみぢ散る田村俊子の墓とのみ

     塔頭のもてなしお茶と桔梗かな

 

平成二十一年 「花芒」             

     蟷螂の幼きが斧ふりあぐる

     秋風や「寂」一文字の谷戸の墓

     釣れざればねころぶまでよ花芒

     もみづりのはじまる富士の裾野かな

     大寺の甍を濡らすもみぢかな

     杖をひく母気遣うて紅葉狩

     人類の足跡思ふ月の海

     なでしこや駆け込み寺のそのむかし

     立秋やいささか濁る海の色

     つくば嶺をわがもの顔に鬼やんま

     目をくるりくるりシオカラトンボかな

     木洩れ陽のひかり尊し彼岸花

     新婚の箱根の宿や吾亦紅

     火の神を鎮むる祠つくつくし

     酔芙蓉空手に先手なかりけり

 

鹿威