天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

同窓会

強羅の紅葉

 今日から一泊二日で箱根仙石原に大学時代の同窓会にでかける。心配していた雨も朝からあがっていて、紅葉も期待できそうだ。この時期、土日の箱根の自動車道は、身動きできないほどの交通渋滞に巻き込まれることを経験で知っているので、登山電車、ケーブルカーを利用する。
何度も訪れているが、強羅公園には、大正十四年の作という斉藤茂吉の歌の碑がある。明神岳、明星岳を包んだ夕べの雲が足下の早川渓谷に沈み入らんとする情景を詠んだもので、昭和三十年五月、神奈川県歌人会により建立された。大涌谷から桃源台へ降りるロープウェイの乗り場には長蛇の列ができていたので、徒歩で山を下りた。紅葉を愛でるにはちょうどよい。
三時前に宿に着いた。今宵は五、六人が宿泊できるコテージをふたつ予約してある。そのひとつに入ってテレビを見ているうちにメンバーが集まってきた。後は、飲んで食って相変わらずの話題に興じて眠ってしまう。


   ひさかたの朝の光をまぶしみて席を移れり東海道線
   手の甲に温みきざせり小春日の車窓に差せる朝の光に
   おもければ頭を窓にあづけたり登山電車のスイッチバック
   次々にトンネルに入りて味気なし車窓に映る乗客の顔
   混みあへば登山電車に立ち通し強羅に着きて茂吉を思ふ
   上山の茂吉記念館にある日見き強羅にありし山房書屋
   冬薔薇のつぼみふふめる朝露の光なまめく強羅公園
   雨あがり朝日にひかる紅葉と赤を競へるサルビアの花
   雨雲の立ち去るほどにあらはるるもみぢの山の「大」一文字
   すぐる日に足ひきずりて越えゆきし外輪山に雲の影見ゆ
   噴き出づる白濁の湯にひと籠のたまご沈むる大涌谷
   枯葉しく山路をくれば何鳥か鋭(と)き声あぐる
   たかむらの中


   はだらなす木漏れ陽の森落葉ふみ波静かなる湖にちかづく
   水底にブラックバスの棲むといふなぎさに寄するさざ波の音
   近況を聞けばサンデー毎日を事業はじむる準備してゐる
   おほかたは病のことに終始せり部屋に集へる十人の友
   先に逝きし友の死因を語り合ふ 若かりし日の
   たばこのみすぎ


   二人部屋ベッドに寝ねてこもごもにかたる還暦すぎし生活


        雨あがる山中の駅秋海棠
        保線夫が見送る車輌もみぢ山
        くれなゐのもみぢ背負へり茂吉歌碑
        もみぢ散る姥子の谷の薬師堂
        雲きれてよそほふ山のかがやけり