天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

こよろぎの磯

こゆるぎの浜

 大磯の県立城山(じょうやま)公園は、三井家の別荘跡である。東海道を挟んで向かいには吉田茂の邸宅跡がある。湘南の大磯は近代にあっては政治家や財閥の別荘地として拓かれたのだ。江戸時代の大磯の宿から寂れることなく現代に繋がった宿場は珍しい。地形と気候がおだやかなことが幸いしたといえよう。この大磯町から二宮町にかけての太平洋岸は、こよろぎの磯と呼ばれた万葉時代からの歌枕であった。


        笹鳴の姿みつけし垣根かな
        植込みを電光石火笹子とぶ
        笹子鳴く別荘跡のうらやまし
        潮騒に身をまかせたり春うらら
        春潮の大磯に読む山家集
        ここちよき春の潮騒うすみどり
        菰巻のいまだとれざる松並木
        菰巻に光まつろふ松並木
        縁側に春の潮騒鴫立庵
        
  鳥さへも近づけまいにトゲトゲのシナヒイラギは朱き実をもつ
  大磯の城山にありし財閥の別荘跡をうらやむ吾は
  縁のなき別荘なれば腹立たし財にまかせて一山を買ふ
  青白き銅像立てり太平洋自動車道の騒音の中
  現し身の思ひは消えず大磯に葉巻くゆらせ鴫をみてゐつ
  大磯の血洗橋に佇みて吉田茂の宅地跡見る
  かつて住みし宅地の丘に青白き吉田茂銅像は立つ
  潮騒に身を洗はれて歩きけむステッキつきし小淘綾の浜
  この国の行方憂ひて丘に立つとも思ほえず青き銅像
  春潮のうすきみどりと潮騒のこころ楽しきこゆるぎの浜
  春風のともなひてくる潮騒にあかず佇むこゆるぎの浜
  うすみどり春の香はこぶ潮風に襟立ててゆく小淘綾の浜
  わだつみの太古の声を思へれば憂ひ忘るる春の潮騒
  余呂伎(よろぎ)とは波の動揺大磯の浜にくつろぐ春の潮騒