天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

北方領土の日

 朝十時頃から右翼の街宣車がやけにがなりたてる。今日二月七日は「北方領土の日」なのだ。昭和五十六年一月に、閣議で決定されたもの。右翼の街宣車は、やがて公安当局が誘導して静かにさせた。昼休みに寒い中靖国神社に行って見たら、多数の街宣車が収まっていた。一台の横断幕に、物騒な文句が書かれたあった。

  十万の動員よりも勝るといふ一発の銃声 北方領土


二月になって入れ替わった拝殿社頭の掲示は、「妻への遺書」。昭和十九年一月三十一日、トラック諸島北西洋上にて戦死した海軍少佐が残したもの。いつものビラをもらってきた。
昭和天皇の次の御製は、戦後の昭和二十三年のもの。
  風さむき 霜夜の月を 見てぞ思ふ
  かへらぬ人の いかにあるかと


  昨夜ふりし雪しづりせる神門をくぐりてぞ読む如月の遺書
  応召以来満一ヵ年存分にはげみしと書く海軍少佐
  死して後靖国神社に祀らるるこれに過ぎたる名誉あらじと
  我死すといへども霊は常日頃御身守ると書きのこしたり
  戦死すと聞かばよろこべ悲しむな 妻をはげます海軍少佐
  妻と子のことのみ書ける遺書なれば最後の日まで開封すなと
  特設潜水母艦率ゐて散りにけりトラック諸島北西洋上
  遺書なれば簡潔なりき末尾なる「さらば」とは永久に男の言葉
  連れ添ひし妻への遺書の短きにさしぐみあゆむ靖国の庭

        すめろぎのなみだに月の霜夜かな