茂吉と万葉集
「短歌現代」三月号の特集「茂吉継承のために」で、内藤 明が「茂吉と万葉集ー『赤光』からー」と題して、大変参考になる分析をしている。万葉集の換骨奪胎の例をあげている。
二句・五句の繰返し:
ひた走るわが道暗ししんしんと堪へかねたるわが道くらし
たまゆらに眠りしかなや走りたる汽車ぬちにして眠りしかなや
灰のなかに母をひろへり朝日子ののぼるが中に母をひろへり
うしほ波鳴りこそきたれ海恋ひてここに寝る吾に鳴りてこそ来れ
万葉集には、
我はもや安見児得たり皆人の得かてにすとふ安見児得たり
藤原鎌足
桜田へ鶴鳴きわたる年魚市潟潮干にけらし鶴鳴きわたる
高市黒人
「うらがなし」の転用:
春なればひかり流れてうらがなし今は野ぬべに蟆子も生れしか
万葉集には、
春の野に霞たなびきうらがなしこの夕影に鶯鳴くも
大伴家持
「たまきはる」の転用:
たまきはる命ひかりて触りたれば否とは言ひて消ぬがにも寄る
万葉集には、
直に逢ひて見てばのみこそたまきはる命に向かふ我が恋やまめ
中臣女郎
「うつそみ」の転用:
うつそみの命は愛しとなげき立つ雨の夕原に音するものあり
万葉集には、
うつそみの命を惜しみ波に濡れいらごの島の玉藻刈り食む
麻続王
その他、「思ほゆ」「ける」「かも」など例は数多くあげられる。