天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

短歌と「あはれ」(6/13)

 総じて茂吉には、「あはれあはれ(6音)」(27首)、結語の「あはれ(3音)」(49首)、他に「あなあはれ」(3首)、「もののあはれ」(2首)などが見られる。
 「あはれあはれ」の例歌を数首あげる。一首目は、四句と結句に分離している珍しい例。
  さげすみ果てしこの身も堪へ難くなつかしきことありあはれあはれわが少女
                             『赤光』
  あはれあはれここは肥前の長崎か唐寺(からでら)の甍(いらか)にふる寒き雨                                      

                           『あらたま』
  うつそみの吾を救ひてあはれあはれ十万円を貸すひとなきか

                            『ともしび』
  下総をあゆみ居るときあはれあはれおどろくばかり低く雁なきわたる

                              『白桃』
  雲のうへより光が差せばあはれあはれ彼岸すぎてより鳴く蟬のこゑ

                              『暁紅』
  実戦の映画ながらにあはれあはれせつぱつまりしは平凡に見ゆ

                              『寒雲』
  二とせの雪にあひつつあはれあはれ戦(たたかひ)のことは夢にだに見ず    

                            『白き山』
これらの例から分かるように、「あはれあはれ」は、除いても意味は通じる。つまりこの言葉は、韻律の調整に便利な上に、感動を伝える効果をもつ。但し、
  この村のしぐれの雨はあはれあはれ蔵王高はらに流らふる雪

                              『小園』
のような例外もあるので要注意。主語「雨は」を受けていると解釈する。 

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斎藤茂吉『万葉秀歌』(岩波新書