天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

万葉の散歩道

 植物園には、万葉の草木を集めて、それらを読み込んだ万葉集の歌を書いた札を立てて散歩道としてあるところがよくある。名古屋の東山動植物園は今日来たのが二回目であるが、万葉の散歩道をたどってみた。紹介してある万葉集の歌のいくつかに返歌を作ってみた。


  妹が見し楝(あふち)の花は散りぬべしわが泣く涙いまだ
  干(ひ)なくに             山上憶良
  春たけて梢にむるる楝(あふち)の実熟れて腐れて
  落ちにけるかも


  高圓(たかまど)の野辺の容花(かほばな)面影に見えつつ妹は
  忘れかねつも             大伴家持
  面影をしのぶよすがもなかりけり石に囲めるヒルガオの草


  磯のうへに生ふる馬酔木(あしび)を手折らめど見すべき君がありと
  言はなくに            大来皇女(おおくのひめみこ)
  殺虫の薬効ありと書かれたり馬酔木の花はすずなりに咲く


  古(いにしへ)に恋ふる鳥かも弓弦葉(ゆづるは)の御井(みゐ)
  の上より鳴き渡り行く          弓削皇子
  虫食ひの穴あまたあく弓弦葉(ゆづるは)のむかうの
  空にヒヨドリが飛ぶ


  道の辺の荊(うまら)の末(うれ)の這(は)ほ豆のからまる君を
  別(はが)かれ行かむ      丈部鳥(はつせべのとり)
  山の辺の荊(うまら)の末(うれ)のあかき芽に朝露
  やどり光るたまゆら



 以下は別の嘱目詠である。

     尿(しと)するや干草食める春の犀
     高々と象が鼻上ぐ春の風
     春光や朝をねむれる虎の縞
     荊木の春の芽を食むエゾヒグマ
     親子して春をにれがむ麒麟かな
     紅梅に鼻近づくる翁かな
     媼立つ桃の花季(はなどき)すぎし苑

  網越しに春はきたると啼き交はすツル目ツル科ホオカザリツル
  白鷺の群るる木立のありにけり動物園の檻なき庭に
  背伸びせるハクモクレンの朝なれば毛のつやめけるつぼみに
  触るる


  中国産竹の林はあたたかき日本の春の風にさゆらぐ
  冬さりて枯れはてにけりフジバカマ、ハギ、クズほかの
  秋の七草


  何の木と問ふ解の札開けたれば日向水木の花かがやけり