天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

栴檀(せんだん)

鎌倉本覚寺にて

 ムクロジ目センダン科の落葉高木。西日本を含むアジア各地の熱帯・亜熱帯域に自生する。別名としてアミノキ、オウチ(楝、樗)など。「栴檀は二葉より芳し」に出てくるセンダンは、白檀のことであり、別種になる。


    栴檀の花散る那覇に入学す     杉田久女


久女が幼時を回想して作ったもので、「琉球をよめる句」との前書がある。飯田龍太の鑑賞に、次のような一文がある。
「この句、作者が女性となると、ますます味わいが深い。おかっぱ姿の、色白の、可憐な少女に散りかかるこまかい栴檀の花屑。またあの羽状複葉の若葉が無類にいい。やわらかなその葉叢に微風がそよぐたび、天上からはらはらと淡紫色の花がこぼれてくる。」
 栴檀についての龍太自身の知識・体験をもとに想像を膨らませている。俳句のような短詩の鑑賞は、想像力に関わっていることがよくわかる。ただ、この場合、那覇のイメージが弱い。

  妹が見し楝の花は散りぬべしわが泣く涙いまだ干なくに
                   万葉集山上憶良
  さみだれとことなしびつる時しもぞ人にあふちの花は咲きける
                   古今集紀貫之
  あふち咲く外面(そとも)の木陰露落ちて五月雨晴るる風わたるなり
                   新古今集・藤原忠良
  くらくなり楝の花をあふぎ見る一人父住む家に帰りて
                     小暮政次
  大木となりたるセンダン年毎に花つけ薫り家つつみくる
                     中野菊夫
  瞬きのいづべにやまむ夕ごころ樗は咲きてうすく散りぬる
                     山中智恵子
  ことことと日のなか君は帰りゆき楝こまかき花降らすなり
                     高嶋健一
  遠き日はとほくにありて朝ぐもりあふちの咲くは悲恋のごとし
                     小中英之