天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

レトリック5

 今日から二泊三日で京都に出張する。といっても業務は金曜日の一日だけ。土曜日は、わが歌紀行に当てる。今日木曜日の夕方から新幹線の京都に向かうので、この日記は、出張から帰ってからの土曜日の午後に埋めている。京都のことは、明日以降に順に書いていこう。
暗示引用は、広く知られている現象、故事、文章などを暗に参照することによって理解される表現。《パロディ》は暗示引用の一種であり、滑稽ないし諷刺のために、ある作風をもじった模擬作品あるいは模擬表現ということになる。パロディは、あるまとまった作品というかたちのものをさす場合が多いが、しかし短い成句や格言のような、短い語句のパロディもある。短歌では、本歌取りが暗示引用の典型である。
 現代短歌における本歌取りの極限は、塚本邦雄に止めを刺す。


  婚禮トラックぎらりと過ぎつこの道や行く人あふれつつ秋の暮
                     『詩魂玲瓏』
本歌は芭蕉の俳句「この道や行く人なしに秋の暮」。

  戦争が廊下の奥に立つてゐたころのわすれがたみなに殺す
                     『魔王』
本歌は、渡辺白泉の「戦争が廊下の奥に立つてゐた」。

  渤海を渡り来れる蝶一頭今、門前に名告(なの)らむとして
                     『詩魂玲瓏』
本歌は安西冬衛の詩「てふてふが韃靼海峡を渡っていった」。

  春の夜の夢ばかりなる枕頭にあっあかねさす召集令状
                     『波瀾』
本歌は、千載和歌集にある周防内侍の作「春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ」。

  駅長愕くなかれ睦月の無蓋貨車処女ひしめきはこばるるとも
                     『詩歌變』
本歌は、菅原道真漢詩「駅長莫驚時変改、一栄一落是春秋」である。