天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

萩の花

海蔵寺の萩

 鎌倉では、早くも萩の花が咲き始めた。萩はかつて栄えた都や幕府の跡に似合う。奈良の白毫寺の萩も圧巻であったが、萩は鎌倉に一番似合うように感じる。萩の寺とまで呼ばれている宝戒寺はもとより、長谷寺海蔵寺など趣がある。そんなわけで今日は一番に宝戒寺を訪ねた。が、萩の花はほとんど咲いていない。来週あたりには大丈夫か。鶴ヶ丘八幡宮の境内を通って海蔵寺に向う。
八幡宮の石垣には、萩の花が咲いている。海蔵寺の萩は山門の短い石段を覆うばかりに咲いたときが見頃なのだが、やはりまだ早かった。
 萩の花は、万葉集にはずいぶん数多くでている。多分最も多く詠まれている花であろう。一番古い歌から三首を次にあげておく。

  吾妹児に恋ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花にあらましを
  高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人無しに
  高円の野辺の秋萩な散りそね君が形見に見つつ思(しの)はむ


万葉集にでてくる最後の萩の歌は、家持作である。

  秋風のすゑ吹き靡く萩の花ともに插頭(かざ)さずあひか別れむ


     辻説法跡にかしまし法師蝉
     流鏑馬の地ならしするや蝉しぐれ
     山門やおどろに垂るる萩の花
     執権の住まひの跡や萩の花
     虫食ひの葉のおびただし酔芙蓉
     鎌倉や萩咲く寺の鹿おどし


  山門に人力車停め老夫婦残り一枚と写真撮らする
  執権邸跡に茂れる萩の花亡びしものの憂ひふふめり
  鎌倉に滅びしものの鬱深し屋敷の跡に萩咲き出づる