天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

箱根・堂ヶ島

蝦夷竜胆

 昨日から今日へかけて一泊二日で箱根に遊んだ。世の中の休日をはずしているので、観光地は閑散としていると思ってきたのだが、箱根は違った。日本人以外に中国韓国からの観光客が目立った。
 初日は、強羅、早雲山、大涌谷、桃源台、仙石原、宮ノ下と巡った。テレビで度々紹介された大和屋に宿をとった。江戸時代には6件の宿があり繁栄したらしい。内の大和屋は1650年に開湯、1940年に閉湯したがやがて同じ名前を継いで現在のホテルが開業した。ここ箱根・堂ヶ島に温泉を発掘したのは、建長寺を退任した夢窓国師(1275-1351)であった。宮ノ下に草庵を建て一年間閑居した時のことという。この草庵のお堂と早川の渓谷がある山をなぞらえて堂ヶ島と名づけたと伝える。この折に詠んだという彼の歌を三首、次にあげておく。新古今調だが、自在の言葉遣いに個性が現れている。

  世の中をいとうとはなき住居にてなかなかすごき山がつの庵
  一と間だにせましとおもう柴の庵になかばさし入る山の端の月
  山深み昼来るだにも淋しきに寄る人やあるしら糸の滝


 豊臣秀吉は、小田原城を攻めた際に、兵士達の休養のために堂ヶ島の温泉を利用した。大和屋には秀吉自身が入ったという温泉がある。まあ、このへんはPRなのでいい加減だが。
 二日目は、昨日雨のため立ち寄るのをあきらめた仙石原にゆく。湿性花園では、釣船草、蝦夷竜胆、桜蓼、吾亦紅、紫苑などに惹かれた。高原の芒ヶ原は、穂先が出揃っているものの葉が枯れる前で青い。一面の銀世界には少し早い。


     秋風や眼鏡くもらす黒玉子
     神山の峰高くせる尾花かな
     雨雲の雨を降らせり秋の山
     店先の古伊万里かげる大西日
     湿原の朝に背のびす吾亦紅


  まつすぐにケーブルカーの鉄路伸び早雲山の空を雲くる
  走りくる雲より高き雲ありて動かざりけり早雲山に
  硫気噴く大湧谷になだれたる土石流見ゆ神山の尾根
  神山の大涌谷に噴く硫気黒きたまごを食へば臭へり
  ゴンドラに閉ぢ込められて宙をゆく早川の辺の出湯の宿へ
  早川のたぎつ瀬の音のみきこゆ星空あふぐ太閤の湯に
  橋わたる女の一生思ひ見る箱根堂ヶ島太閤の湯に
  早川のたぎつ瀬の音部屋にみち出湯の宿に夜はふけゆく
  あからひく朝の光に影ろへり夢窓国師の草庵の跡
  しののめの空に陽は差し朝つゆの仙石原に銀髪なびく
  水青む秋の朝をすべりゆく箱根権現御手洗之池