天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

貝吹地蔵

貝吹地蔵

 鎌倉宮までバスに乗り、覚園寺に行く途中から裏山に入る。瑞泉寺に向かう山路が天園ハイキングコースである。まだまだ紅葉には早い。天園の尾根道を歩いていると、斜面のくぼみに祭られた貝吹地蔵に出会う。1333年、新田義貞の軍に攻められ自害した北條高時の首を守りながら敗走する北條氏の部下たちを助けるために貝を吹き鳴らしたという。これは大正二年五月三十一日の日付で瀬谷文化協会が書いた小さな案内板の説明である。ただ、何か解せない。だって、貝を吹き鳴らしたら追っ手の新田軍にもわかるはず。
山路を歩いて通常は、瑞泉寺に下りるのだが、今日は初めて明王院に出る道をたどった。


     くれなゐに山路そめたり櫨落葉
     裏山の朝日に垂るる烏瓜
     川中に尾花なびくや青砥橋
     川岸の尾花とあそぶ雀かな


  断層の山の窪みにふりにけり目鼻見分かぬ貝吹地蔵
  裏山に貝吹き鳴らし敗走の兵を助けし貝吹地蔵
  高時の首級かかへて逃げて来し谷戸のなだりの貝吹地蔵
  裏山の落葉かけゆく山鳥の声くぐもれり雌にかあるらむ
  五大堂明王院の軒先に渋柿ならむたわわに垂るる
  風船の紐むすびたる右手あげ階段下るるひとり幼な子