短歌とルビ
広辞苑によると「ルビ」とは、振り仮名用活字。また、振り仮名。5号活字の振り仮名である7号活字がルビー②とほぼ同大であるからという。イギリスの古活字の大きさの一つで、約5.5ポイント。要するに、漢字のふりがな、ふりがな用の活字 のことである。通常は、読み難い表記の漢字の右側に読みを小さな字のかなでふるのだが、短歌では、表記の漢字の読みどおりでなく、全く別の読み方を指示するふりがなをつけることがままある。
一般的に短歌におけるルビについて調べてみたくなった。まあ、詳細に調べてまとめるかどうかは別に考えることにして、いくつか変則的な例をあげて見よう。今日読み終わった馬場あき子の第二十一歌集『ゆふがほの家』、先日触れた高野公彦の歌、および前衛歌人・塚本邦雄の作品を取り上げる。漢字の後のカッコ内がふりがな部分の読みである。
先ずは馬場あき子『ゆふがほの家』から。
大虚(おほぞら)は明るくありて秋の気の流れ静かに人を忘るる
吹雪(ふき)に打たれひるがへる鳶の翼鏡のあなやはらかき生の
色はも
ニルギリは処女なり蒼き爽昧(ひきあけ)の光に染みてひた
をとめなり
明星は夜深き海を上りきてぎーんぎーんと呻吟(によ)ぶ
ならずや
次に、高野公彦の例から。
わが幼時、百葉箱(ふしぎなはこ)がひつそりと夕日を浴びて
立つてゐました
怠けたく酒が飲みたく遊びたく羊腸(くねくね)とせり五十の
こころ
十一面観音見了へ俗(よのなか)にもどりて熱きうどん食ひたり
原つぱがあつて子供(ガキ)らが遊んでた言つても詮ないけれど
昔は
最後に塚本邦雄の例から。
ひえびえと暮るる六月蒼蠅(フライ)級ボクサーが身の丈を
はかる
一瞥の一瞬にが苦し右大臣實朝像のその痘痕面(あばたづら)
百年先の日本想ひて眠るにも重きかなわが頭蓋骨(オツサ・
クラニー)
禁忌きはまりしうつつに麦秋の麦うちなびき全絃合奏(コーダ)
のごとし
[追伸]このブログのふりがなは、上記のように横書き括弧内に
入れるほかないので、わかりにくい。通常のように漢字に
添って書けるとよいのだが。それは我慢して頂くとして、
上で紹介したふりがなの効果は明らかであろう。
従来歌会では、変則なふりがなを付けると、厳しく戒められた。
でも、今や効果さえあれば、自由にトライできる気運になって
いる。大御所が始めないと認めない、という封建的雰囲気が
あるのは、よろしくないが。