こころざし(2/3)
志くずれゆくごと見られつつひと庭しろき鷺草も散る
馬場あき子
*鷺草の唇弁は大きく、その開いた様子が白鷺が翼を広げた様に似ていることが和名の由来である。その美しい花が散る様子をみると、「志くずれゆく」ように感じられるのだ。
こころざしいまだ朽ちざる頽齢のすさまじ 二十日越しの空梅雨(からつゆ)
塚本邦雄
こころざし遂げなばあとは何遂げむ朱の海鞘(ほや)噛むは舌噛むごとし
塚本邦雄
*海鞘: ホヤは海産動物の総称。凹凸のあるその形状から「海のパイナップル」と呼ばれる。ホヤの仲間は日本だけでも百数十種程もいるとされる。そのうち食用とされているのは「真ホヤ」と「赤ホヤ」など、ごく一部。
うたの下句は、切ってある赤ホヤの形状が舌に似ていることから理解できよう。ただ上句とどう繋げて解釈するか? こころざしを遂げたなら、あとは余計なことはするな、という
助言であろう。
男と男父と息子を結ぶもの志とはかなしき言葉
佐佐木幸綱
まつはただ意志あるのみの今日なれど眼つぶればまぶたの重し
窪田空穂
意思表示せまり声なきこえを背にただ掌の中にマッチ擦(す)るのみ
岸上大作
*安保闘争のデモの渦中に身を投じた経験と恋とをうたった作品「意志表示」が有名。
失恋を理由として下宿の窓で首を吊って自殺、享年21。
生きていれば意志は後から従きくると思いぬ冬の橋渡りつつ
道浦母都子
*全共闘運動に関わった学生時代を歌った歌集『無援の抒情』が有名。