天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

短歌人・5月東京歌会

 先の日曜日、池袋の東京芸術劇場で定例の「短歌人」東京歌会が開催された。「短歌人」の選者でもある編集委員の何人かが詠草を出していたので、以下に紹介しておく。歌の作り方の参考になるはず。


  坂道の途中で降りて自転車を引きつつのぼりゆく敗北感
                       中地俊夫
  *敗北感の原因は何か?と読者は考える。それは「敗北感」に
   かかる全ての語句が説明している。若い頃は、途中で自転車
   を降りることなく、坂道を登る体力・脚力があったのに。


  風邪引きの前駆症状 右側の坐骨神経キリリと痛む
                       橘 國臣
  *風邪を引くのかな、と感じる時、人によっては予め特定の
   症状が出ることがある。感じない人も多いが。なんで?本当?
   と聞いてもしょうがない。


  葛飾の真間の手児奈の水鏡井戸を覗けばわが影映る
                       諏訪部仁
  *上句は「井戸」にかかる序詞である。実際に葛飾真間の井戸
   を覗いたかどうかは問うところでない。「井戸を覗けばわが
   影映る」は当たり前だが、古典を踏まえた序詞をつけること
   でもっともらしい歌にした。


  めつたやたらにしやべくる車内放送あり車掌のきみよカラオケ
  をすな                  小池 光 
  *結句が分かりにくい。カラオケというからには、歌を唄うこと
   をすぐに連想するからである。車掌は歌を唄っているわけでない
   のに何故?ここでは、いつまでもマイクを離さない状況を
   「カラオケ」に託している。一部の特性を取りだすことで
   疑問を抱かせる効果あり。


  24階のオフィスの窓に見る蒼穹にさえ濃淡あるを
                       藤原龍一郎
  *藤原龍一郎の歌の典型。結句が言いさしの感じになっているが、
   「蒼穹にさえ濃淡あるを24階のオフィスの窓に見る」という
   文型を倒置したのである。この倒置により結句から初句に戻る
   無限の繰返しが生成され、謎めいてくるのである。