天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

芍薬

芍薬

 ボタン科の多年草で、原産は中国北部からシベリア東部。中国では、「花の宰相」と呼ぶ。日本には平安時代に渡来し、「えびす草」とも言った。その妖艶さは、嫁に行く前の娘の寝姿に喩えられる。薬用と観賞用があり、薬用は根を乾燥させ煎じて使う。痙攣や痛みを和らげるらしい。


      しやくやくの蕊の湧き立つ日向かな 大祇
      緑金の虫芍薬のただなかに     飯田蛇笏
      芍薬を嗅げば女体となりゐたり   山口誓子
      芍薬のゆさゆさと夜が生きてをり  鍵和田釉子


  夕庭に風しづまればしやくやくの明日ひらくべきほのかなる紅
                       柴生田稔
  吾にはげしき夏くる兆し芍薬の花蕊にほそきくれなゐ見ゆる
                       安永蕗子


 芍薬を見るには、牡丹苑に行くとよい。だいたい、牡丹の後に芍薬が咲くように按配されているからである。というわけで、「町田ぼたん園」に行ってみた。ついでに、隣の新東京百景・薬師池公園も回ってきた。


      芍薬クレオパトラが風に揺れ
      透谷と美那子出会へり牡丹苑 
      水脈ひける背鰭の先の若葉かな
      薫風の鎌倉街道バスを待つ


  素人的仏師の彫りし仏像を拝み祭れりこの土地の人
  透谷と美那子出会ひの地と書ける石碑建てたり芍薬の庭
  富士山の噴火の灰にうづもれし池掘り起こす薬師池なり
  蓮の葉のいまだ幼き蓮池に蛙鳴くなり近づけば止む
  草木のひとつひとつに掲げたり読めばゆかしき万葉の歌