蝶と野良猫
JR相模線の宮山駅で下車して寒川神社境内を歩き、相模川岸を歩く行程もわが吟行ルートのひとつである。川の岸辺に座っていると、様々なものが見える。遠くには大山の峰、川上には新幹線、川の中島には鷺やヨシキリ、対岸の空には雲雀、時に静寂を破って無線飛行機。下流には寒川ダムがあるので、少し風が強く吹くと逆白波が立つ。平日はまことに静かであるが、相模川に沿う形で高架橋の道路が建設中であり、数年経つと様変わりするだろう。
人気無き拝殿に吹く夏の風
雉啼くや畑つくれる河川敷
次々に橋脚が立つ散水車
野良猫と蝶とあそべる畑かな
椋鳥の悪声やまず柿若葉
黒猫がくるとささやく立葵
さりげなくはや月草の咲き初めし
騒がしき朝の通勤時間過ぎ駅舎の屋根に交尾する鳩
血糖値限界なりといふ朝は憎々しけれ土鳩の交尾
お互ひにそしらぬ顔に羽づくろふ交尾の後の朝の土鳩は
白絹に包める嬰児を座らせて煙草吸ふなり年増の女
雷の人らが建てし庚申塔道標かねて道の辺にあり
川風に葦のそよげる相模川雲にかすめる大山の峰
相模川岸辺に寄する波音の藪蔭に咲く昼顔の花
寒川のダムの川浪さかのぼる岸のかなたに白鷺が飛ぶ
自動車を置きて魚釣る赤シャツの男がひとり逆波の川
宮山の駅のかたへの畑には蝶とあそべる黒き野良猫