天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

薬師林道

南天の実

 晴れ渡った秋の朝空に、神々しくも際立てる大山の峰を遠くに望むと、その頂にむしょうに立ってみたくなった。それで小田急伊勢原駅に降り、大山行きのバス停に向うと、長い人の列ができている。ほとんどが老人である。どうやら大山寺の紅葉を見に行く人達らしい。これでは、とてもバスに乗れない。行く先を日向薬師に変えた。日向薬師から七沢温泉に通じる道を薬師林道という。そこを歩いた。


  晴れわたる朝秋空に際立てる大山の峰にのぼらむとする
  多摩川の中洲河原にしらじらと朝日を受くる群れみやこどり
  バス待てる列の長きにあきらめつ大山寺のもみぢ見たきを
  収穫の終はりし棚の葡萄の葉秋の日差しに枯れて美し
  陽の色に熟れて垂れたる柿の実を採る人もなし相模野の道
  地に落ちて実を散らしたる熟れ柿に命継ぐらし蠅群れさはぐ
  「クマ出没注意」の札の立ちたれば靴鳴らしゆく薬師林道
  啄木鳥がしきりにたたく桜木のもみぢちるなり薬師林道
  大杉の梢覆へる葛の葉の枯れて垂れたる薬師林道
  木洩れ陽の朝のはだらに音たかく木の実落ちたり薬師林道
  そのかみの馬頭観音たづぬれば参道に燃ゆ満天星
  (どうだんつつじ)


  天然の出湯の宿は七沢の朝の日なたに唐辛子干す
  朝の陽に南天の実のかがやけば出湯の宿はさみしかりけり
  朝光に魚の姿をもとむらし川のもなかに立てるあを鷺
  杖ひける主人をつれてバスに乗り床に腹這ふ盲導犬